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「組合旗と握手ロゴマーク」
NPO法人・働く文化ネット理事 鈴木 不二一
※『連合 労働相談通信 第43号』掲載
連合・非正規労働センターのご厚意により転載させていただきます。
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最近、仕事と暮らしの過酷な現実や、働くものの連帯を描く映画が世界中で多く制作されるようになった。過去の作品も含む上映イベントも盛んである。2013年のメーデーには、9か国19箇所の労働映画祭が世界同時開催のグローバル・レーバー・フィルム・フェスティバルを実施した。
最近の話題作をいくつか拾うと、まず労働映画祭の中心地アメリカでは、ワーキングプアの世界をリアルに描いた『サンライト・ジュニア』(2013)が、マット・ディロン、ナオミ・ワッツの熱演で注目を浴びた。看板の文字描き職人の実像を追った『サイン・ペインター』(2013)、1930年代の摩天楼建設に従事した労働者たちの謎に迫る『ランチをとる男たち』(2012)など、労働史のひだに分け入る多彩な記録映画も登場した。非合法移民の期待と幻滅を描く『ある母の物語』(2011、フィリピン)をはじめ、グローバル化の現実をテーマとする作品も増えている。
昨年は、1984年炭鉱ストを背景に、同性愛差別反対運動の活動家たちと炭鉱労働者の連帯を描いたイギリス映画『パレードへようこそ』が話題をさらった。この映画は、丁寧に作られた大道具、小道具、撮影セットが、時代の雰囲気を忠実に再現しているのも見どころのひとつ。とりわけオーラの漂う存在感で俳優たちを圧倒しているのが、古色蒼然とした絵模様で飾られた炭鉱労組の組合旗である。色彩豊かな表象に彩られたイギリス炭鉱労組の組合旗は、ダーラム炭鉱祭りのパレードなどでもよく知られている。映画では、100年以上前から組合旗の中の連帯の表象として伝承されている握手ロゴマークが狂言回しのようにうまく使われていた。
実はこの握手ロゴマーク、AFL-CIOのシンボルでもある。図1に示す現在のロゴはAFL(アメリカ労働総同盟)とCIO(産業別組合会議)が握手する形になっている。これは1955年に両組織が合同した際に制定されたデザインで、もともとは1881年制定のAFLの紋章だった。ゴンパース自伝によれば、ユダヤ人移民の共済組合のシンボルに起源を持つという。
ところで、戦前の日本の組合旗にも握手ロゴが描かれているものがある。東京乗合従業員組合旗右上のロゴがその一例(図2)。このデザインの出所はいったいどこなのだろう。アメリカか、ヨーロッパか、それとも国際組織のシンボルマークの転用なのか。
労働組合の旗、紋章、バッジなどに描かれているさまざまな表象の研究は、日本ではまだほとんど手がついていない。そろそろこうした労働組合文化の掘り起こしと図像学的研究にも着手してみてはどうだろうか。それは、日本の労働文化の深層に新しい照明をあて、その豊穣さを未来に向かって投げかけていく大切な活動分野であるように思われる。