NPO法人働く文化ネット 設立趣旨書
現代社会に生きる私たちは、誰しも「働くこと」とのかかわりを持っている。けれども、昨今、この「働くこと」への不安感の高まりは著しい。熾烈な就職活動、増え続ける不安定雇用、過剰な長時間労働、労基法違反の横行など、「働くこと」をめぐっては、不安、不満、不当、不条理の「不」の連鎖が渦巻いている。私たちは、このような問題を決して放置してはならない。
「働くこと」に関する問題意識の共有化を進めていくには、「働く文化」について改めて考えてみることも有効な手がかりを得るひとつの方法である。具体的には、19世紀末から現代にかけて発展してきた「映像」メディアによる数多くの労働の記録のインパクトは大きいものがある。しかし、それらの映像記録は、その歴史的価値が大きいにもかかわらず、フィルムの劣化などによる散佚の危機に直面している。また、「働くこと」の様々な困難に立ち向かってきた労働運動の写真・資料も、これからの「働く文化」を考える上で大きな示唆を与えてくれるものである。それらの「働く文化」の遺産をもう一度掘り起こし、後世に伝えていくことを通じて、「働くこと」のこれからについてを考え直していきたい。
「働く文化」は社会運動の地下水脈である。そこから命の水を得た社会運動の力こそが、「働くこと」に関わる社会規範を形成し、その法的制度化を推進したものといえる。「働く文化」や運動が法律をつくってきたのであって、決してその逆ではない。しかしながら、昨今の「働くこと」への不安感が増している背景には、現在の「働くこと」の法律・ルールをないがしろにし、形がい化させてしまっている社会の現状がある。ワークルールを守る、守ってもらうために、まず必要なことは、働く人、働かせる人、働こうとしている人がワークルールを知っていくことだ。企業の経営者、管理者、労働者はもちろんのこと、学生もワークルールを理解することで、それを適切に使って守られていないことに立ち向かい、それを共有していくことで「働くこと」はより良く変わっていくはずだ。
私たちの人生の多くを占める「働くこと」に喜びや生きがいが感じられなければ、社会全体をより良くしていくことは難しい。そのための方法は様々だが、この法人は、現在の雇用環境や社会環境を改善していくために、「働く文化」の振興に関する活動、教育及び研究の事業、ワークルール啓発事業などを行っていくことを通じて、すべての人が「働くこと」に喜びや生きがいを感じられるような「ディーセント・ワーク」で満ちた社会づくりに寄与することを目指すものである。
2013年6月5日